29 June. 2016
コラム「超人探訪記」第22回 「オイルショックと終末ブーム」
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
第18回で触れた1973年のオイルショックは、「科学万能主義」の時代にピリオドを打った。生活を豊かにしてバラ色の未来を築くと思われた科学文明は、化石燃料の上に築かれた砂上の楼閣だったのだ。そんな具合に科学を支える基盤の脆弱性が露呈し、市民はトイレットペーパーなど生活必需品の買い占めに走って、意外ものが「人間らしさ」にとって重要であることも発覚する。これは、日本の社会通念を揺るがしていった。もっとも大きな影響は未来が「希望」ではなく「絶望」ベースに変わったことである。いわゆる「終末ブーム」「オカルトブーム」の到来である。
まず、1973年3月にSF作家小松左京の小説『日本沈没』(上下巻)が200万部級という前代未聞のベストセラーとなる。続いて同年11月には五島勉の新書『ノストラダムスの大予言』が発刊され、これも200万部を超えた。中でも「1999年7月に空から恐怖の大王が降臨する」という部分が人類滅亡の予言だとクローズアップされ、未来への不安を子どもの心に刷り込んだ。事実、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件など、本当の世紀末になって多大な社会的影響をあたえている。
アニメ特撮文化も、大きくこの変化に左右された。特に『日本沈没』は出版から時間をおかず同年末に「お正月映画」として東宝で大作映画化され、これも大ヒットする。都市破壊をリアルに描いた中野昭慶特技監督の精緻なディザスター特撮は、衰退基調にあった邦画にカンフル剤的作用をもたらし、「超大作」の呼び水となった。続いて1974年8月には『ノストラダムスの大予言』が同じ東宝で映画化され、人類滅亡のイメージが本格特撮でビジュアル化される。この2本の「特撮大作」は「怪獣を必要としないスペクタクル」という点で、ゴジラ映画をいったん終了(1975年3月『メカゴジラの逆襲』)させる要因ともなった。
同じ1974年には前年『マジンガーZ』のヒットを受けて『ゲッターロボ』『グレートマジンガー』とロボットアニメが台頭している。そして後に日本のアニメ史を書き換える『宇宙戦艦ヤマト』も1974年10月に放送スタートしている。同作は基本ストーリーを「2199年に空から降る遊星爆弾で滅亡寸前となる地球救済」としているが、これもまた「終末ブーム」の大いなる影響下にある設定だった。
1973年から1975年にかけて、超人文化はこのような同時多発的な激変にさらされていたのであった。