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25 May. 2016

コラム「超人探訪記」第19回 「変身時代劇と宿命のライバル」

文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

 変身ブームの始祖『仮面ライダー』(71)は「娯楽時代劇の構造」を内包していた。バイクを駆るのは乗馬の延長だし、主役の強さをたっぷり見せるため雑魚の群れと立ち回りを行うのも、東映で長く培われてきたチャンバラ時代劇のスタイルだ。1972年4月に『変身忍者嵐』『快傑ライオン丸』と2本の変身時代劇が始まったのも自然な流れだった。

 前者は『仮面ライダー』と同じ石ノ森章太郎原作・東映製作でそのまま時代劇に移行したイメージがあったが、『ウルトラマンA』と同じ時間帯の放送で、大ヒットとまでは行かなかった。むしろ人気は『スペクトルマン』の後番組として始まった『快傑ライオン丸』に集中した。同作のピー・プロダクションは、第一次怪獣ブームの1967年ごろ『豹(ジャガー)マン』『豹(ひょう)マン』と2本のパイロットフィルムを製作している。「週刊少年マガジン」にも掲載されて放送直前まで行ったがキャンセルされた。同作のアイデアや設定を応用して、同じネコ科の超人として誕生したのが『ライオン丸』であった。

 白く長いタテガミ、マントを身にまとい、日本刀を使って変身するライオン丸は、非常に型破りで新鮮な印象をあたえた。このヒットを受けて、ピー・プロダクションは『風雲ライオン丸』『鉄人タイガーセブン』『シルバージャガー』(パイロット版)と、ネコ科超人を続々と誕生させていく。中でも特筆したいのは、『快傑ライオン丸』第27話から登場するライバルキャラ、タイガージョーである。

 変身前の名は虎錠之介。日本一の剣士となるべく名家を出て、大魔王ゴースンと手を結んだ男だ。獅子丸=ライオン丸に初戦で片眼を傷つけられ、以後は宿敵として幾度となく剣を交えることになる。錠之介は悪の側でありながら純然たる実力勝負にこだわり、卑怯な手段を嫌う美意識がある。そして実力伯仲の獅子丸とは、剣を交えるうちに奇妙な友情を感じるようになっていく。この変化が良かった。途中、役者の事故死による交代などもありつつ、タイガージョーは大人気となる。

 主役超人が“光”ならば、ライバル超人は反対の“闇”に相当する。人間それ自体が心の中に「光と闇」を等しく抱えているように、両者は対となって超人番組を支えていった。『人造人間キカイダー』(72)のハカイダーなど、名勝負をかけた黒騎士タイプのライバルキャラはやがて定番化していくが、その系譜もこの時期に始まっているのだ。

第19回 「変身時代劇と宿命のライバル」

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