02 May. 2016
コラム「超人探訪記」第16回 「ギャグアニメもまた超常の存在」
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
西暦1965年に、「テレビまんが」は大きく発展する。生活ギャグの旗手『オバケのQ太郎』が登場したのである。「異世界を描くべきアニメに畳敷きの日常は合わない」という業界内のネガティブな下馬評に反し、「オバQブーム」を巻き起こしていった。
1967年になると『ウルトラマン』の影響で少年SFヒーローのアニメが退潮し、ギャグアニメが主流化する。『パーマン』『ドンキッコ』『ちびっこ怪獣ヤダモン』『おらぁグズラだど』など、「生活の中に風変わりなキャラが混入」という作品が多くなっていった。もともとアニメーション映画の誕生期は、「現実を変容させる」という点でシュルレアリスム作家から注目された。ギャグとは「常識の破壊」のことだから、アニメと親和性がある。「教育ママ」が流行語になり、遊びを封じられた子どもには閉塞感があり、ギャグアニメの破壊的センスが歓迎されたのだった。
その潮流の中で、「時代の刷新」を感じさせるタイトルがいくつかあった。たとえば4年間のロングラン『鉄腕アトム』の後番組『悟空の大冒険』は、杉井ギサブロー監督を中心とする当時の若手スタッフが、常識に縛られない自由な発想で挑んだ作品だ。キャラクターが入れ替わり立ち替わり大暴れして、先がまるで読めない超現実的な展開が続き、センス良い絵づくりで楽しませてくれる。
トキワ荘グループや月刊誌時代の大家とは、まったく違うテイストの新しい作家も台頭した。赤塚不二夫の代表作『おそ松くん』の後番組として始まった『かみなり坊やピッカリ★ビー』は、新しい作家・ムロタニツネ象の奇想を反映したギャグアニメだ。天上に住むカミナリの子どもが少年の家に居候する点では「オバQタイプ」であるが、シルクハットをかぶって雲に乗り、悪漢に雷撃を放つと相手のオヘソに花が咲くなど、やはり尋常ではない発想とキレ味鋭いギャグが連発する。
さらに翌年、同じ時間枠で始まった『ファイトだ!!ピュー太』は、こうしたシュール系ギャグアニメの決定版だ。スピード感と常識破壊の点で完全に過去を振りきり、今でも伝説的なギャグアニメとして語りぐさとなっている。現実感覚を揺さぶる衝撃をあたえ、ものの見方を変えてくれるこれらのシュルレアリスム系ギャグ作品もまた、「俗人の常識を超えていく」「既存の固定観念を変えていく」という点で、実に「超人的」と言えるのではないだろうか。