15 January. 2016
コラム「超人探訪記」第13回「超人能力、その目的の変容」
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
「正義、平和、自由」。怪剣クロードは超人が戦う目的を3点に絞りこんで、大衆へ突きつけた。フィクション世界のヒーローは、1970年初頭までこうした抽象的な言葉を掲げてきたし、観客もそれで納得していた。近年、「みんなの笑顔のために」「安心して暮らせるように」など、より具体的に目標を語りかけるようになっているのとは少し差がある。
その間に、価値観をひとつに絞りこむことへの賞味期限切れが起きて、断層が形成されているのではないか。断層のひとつが1970年の安保条約改正で、第13話のベースとなった1968年10月21日の「新宿騒乱」もまた、そのシンボルである。この暴動は新左翼による反戦運動のピークで、武装したデモ隊およそ2000人が新宿駅で電車や施設を破壊、機動隊と衝突して逮捕者743人を出した大事件だった。
横須賀では米軍の原潜寄港を阻止する活動が起きたし、同じ新宿駅では米軍のジェット燃料タンク車(通称米タン)が爆発している。つまり戦中の反動で「平和」が標榜されてたとしても、水面下で日本は戦争に荷担していた。基地化された日本に真の意味での「自由」はまだない。「正義」と言ってもイデオロギー対立となった冷戦構造の中で、誰のためのどういう正しさなのか。そんな疑問の爆発が暴動となったわけだ。
テレビ文化でも1968年末から1970年中は特撮やアニメのヒーロー番組が退潮し、より人間主義と言える「スポーツ根性もの(略してスポ根)」の時代が来る。野球、ボクシング、レスリングなど特訓できたえた身体の中に大衆は「超人性」を見いだすようになった。その間に1969年のアポロ11号月面着陸と、1970年の大阪万国博覧会開催がある。いずれも「科学時代のピーク」であり、逆説的に「科学の圧倒的なパワーでは解決できないことがある」という限界を、誰もが悟り始める。
こうした断層を超えた後、時代はどう変わったのだろうか。一例として「団塊の世代」に向けてバイクやパチンコ、不良の情交などアダルトな内容を掲載し始めていた「週刊少年マガジン」は、1972年に表紙のトーンをガラリと変える。「何者にもなれない若者」を描いた『男おいどん』(松本零士作)や女性アイドル歌手を表紙の軸にし始めたのだ。そしてこの年の末には、70年代巨大ロボットアニメブームを招いた『マジンガーZ』(永井豪作)が放送開始となる。
もちろん以後も「超人文化」は時代時代の子どもに合わせた新作を生み続けるが、明らかにこの時期に大きな変革と断層が存在する。そんな現実の世相激変に対し、『コンレボ』第2期はどのようなドラマを見せてくれるのだろうか。再開が楽しみである。