15 December. 2015
コラム「超人探訪記」第10回「スパイブームと世界情勢」
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
第10話にはIQ(インフェルナルクイーン)という組織が登場し、クライアントが世界各国政府と暗示される。利益を求めるのが国家の目的なら、その最大化の選択肢のひとつとして武力行使がある。表面的には対立を見せながら裏では手を結んで最大化するケースもあり得る。複雑な謀略の代行として破壊活動を行う組織があるというのは意味深だ。
軍事力が科学技術によって強くなりすぎたのが、第二次世界大戦であった。ゆえに戦後の世界は東西二大陣営に分かれていき、「冷戦」と呼ばれる状況へ移行した。軍事力による大国の直接対決は避けられた結果、逆に暗闘的な覇権争いが続く。映画、テレビも大衆文化だから、こうした世情の推移には大きな影響をうける。1960年代前半、戦記ブームと同時に台頭したのが「スパイもの」だった。1962年には映画『ドクター・ノオ』(当時は『007は殺しの番号』)が公開され、シリーズ化される。少年週刊誌でもジェームズ・ボンドの駆使する数々の「秘密兵器」が特集され、アニメ・特撮もブームを追った。
たとえば1964年から放送されたTV特撮『忍者部隊月光』(吉田竜夫原作)は古典的な忍者ものを現代に投影し、特殊部隊が秘密結社と戦う。『スカイヤーズ5』(67)も国際犯罪組織ゴーストに立ち向かう国際警察の精鋭チームが主役だ。手塚治虫原作の『W3(ワンダースリー)』(65)では主人公の兄が秘密諜報機関フェニックスの一員である。円谷プロダクションの『マイティジャック』(68)は秘密組織Qと戦う私設組織の物語で、空中を飛行する科学万能戦艦が事実上の主役となった。英国の特撮人形劇『サンダーバード』(日本放送66年)のヒットで「スーパーメカ」がフィーチャーされる傾向もつよくなっていくが、007はイギリスの秘密情報部(MI6)の所属だし、特撮スタッフも重なっていて接点が多い。
さて最大の問題は、「悪の秘密組織」の成立要因である。それが軍需産業による経済的なものであることは、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』(64年連載開始)で示唆され、実に説得力があった。さらなるバックには当然のように「国家」がある。007も国家機関の「エージェント(代理人)」だし、国家レベルの事案に対処するのが主任務なのだから。
国家がバックにある秘密組織という点では、「超人課」も同様。国家と組織と個人との関係性の中から、超人たちは何を考えどう行動を選択するのだろうか……。