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02 November. 2015

コラム「超人探訪記」第5回「宇宙ブームが超人を変えた」

文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

 第5話は「日本『怪獣』史」の後編。ここで注目したいのは、「宇宙」というキーワードである。前回触れたように、現実世界では西暦1966年の『ウルトラマン』が怪獣ブームを加熱させた。ゴツゴツとした表皮の怪獣がカオス(混沌)なら、超人を直訳したウルトラマンはコスモス(秩序)だ。そのツルンとしたメタリックな表面にヒューマニティの象徴・朱色がマークされた姿は、科学技術の頂点たるロケットやロボットを連想させる。

 そして同作は「怪獣」の概念を変えた。『ウルトラQ』の「ケムール人」のように「アメリカ人」的なネーミングだったものを、「宇宙忍者バルタン星人」の大人気によって「○○星人」という呼称に刷新し、「怪獣+宇宙人」と敵のカテゴリーを拡張したのだ。1967年4月には後番組として「バンデル星人」をレギュラー悪役とするスペース特撮『キャプテンウルトラ』(制作は東映)がスタート、同年10月にはついに「毎回違う宇宙人(星人)が登場」という『ウルトラセブン』が始まる。超人の故郷を『ウルトラマン』と同じM78星雲と共通化することで「超人の世界観」を接続した画期的な番組だ。

 実は『ウルトラQ』の前年、1965年のテレビアニメは「宇宙ブーム」だった。同年は『宇宙パトロールホッパ』『宇宙人ピピ』(実写合成)『宇宙少年ソラン』『宇宙エース』『遊星少年パピイ』と「宇宙まみれ」のリストができる。しかしそれは急速に衰退し、「銀色」などロケットの質感を表現可能な特撮に巻き取られていったという流れなのだ。

 アニメでブーム化した「宇宙」が「怪獣」という要素と合体し、特撮という質感を得てパワーアップし、歴史の歯車がシフトアップした。忘れてはいけないのは、この「宇宙ブーム」は当時の冷戦状況が生み出したものということ。『ウルトラセブン』は地球の国家間による戦争を「星間戦争」にたとえ、ドラマ面での深化を実現した作品だが、それは現実世界の反映でもあった。「核兵器」を安易に行使すれば全面核戦争を誘発し、自らも滅ぶ。だからアジア圏で代理戦争を行い、並行してフロンティアの「宇宙」で科学技術競争を行った。そのピークは1969年に実現する「アメリカのアポロ11号による月面到着」である。その達成が射程に入ってきたから、前倒しで宇宙ブームが起きたわけだ。

 フィクション世界の「怪獣」や「超人」とは、決して現実世界と断絶した存在ではない。その当然の認識を『コンクリート・レボルティオ』という作品は改めて思い出させてくれるのである。

第5回「宇宙ブームが超人を変えた」

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©BONES・會川 昇/コンクリートレボルティオ製作委員会