26 October. 2015
コラム「超人探訪記」第4回「《怪獣》は、映像が可能とした空想生物」
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
初の前後編となる第4~5話のサブタイトルは「日本『怪獣』史」だ。今ではアメリカ映画『パシフィック・リム』(13)で「Kaiju」と日本語のまま登場するほど、「MONSTER」とは違う概念だという世界的認知もできた。
西暦1963年――「マンガの神様」こと手塚治虫は自身の虫プロダクションでテレビアニメ『鉄腕アトム』を実現した。さらに「特撮の神様」として世界に知られる円谷英二特技監督が1966年、円谷特技プロダクション(当時)で本格的テレビ特撮番組『ウルトラQ』を世に送りだす。この両者は正月放送スタートなど随所で相似形を描いている。
問題は大人向けファンタジーで始まった『ウルトラQ』が、局からの強い要望で怪獣番組に変わり「怪獣ブーム」を児童層に起こす引き金になったことだ。なぜそんな要望が出たのか? 円谷英二とは1954年の映画『ゴジラ』で「怪獣」を「特撮技術を駆使した映像による空想生物」として描き、モンスター映画の系譜を刷新したイノベーターだった。それ以前は秘境から発見された巨大類人猿や、突然変異で巨大化した恐竜や昆虫など「現実との接点」を重視していた。ところが円谷特撮の描くゴジラは空想ベースのデザインで、熱線を吐く前に背びれが発光するなど、むしろ「現実を超越したビジュアル表現」で観客の心を驚異で吹き飛ばした。そこに「戦争」と「科学時代」の関与は大きい。
『ウルトラQ』を制作順に並び替えれば、次第に「怪獣路線」へシフトする様相が浮かぶ。それも初期は「巨大生物」が多いのに対し、第2クール目からはペギラ、ガラモンなど「空想特撮でこそ描けるウルトラ怪獣」が続々と登場し、最終的にウルトラマンに近いウェットスーツを使った「宇宙人」の出現に至る。テレビ番組『ウルトラQ』の個体発生のプロセスは「怪獣映画史」という系統発生の歴史を圧縮したものなのだ。
ついに1966年7月、『ウルトラマン』から「毎週違う怪獣が登場する」という形式が始まり、全児童番組に決定的な変化をもたらす。そしてウルトラマンも最初は「毎週の怪獣を30分枠の中で終わらせる」ための「最強の怪獣(宇宙人)」という発想で生まれたものであった。ところが放送局は、『アトム』の影響で量産されたSFアニメに近い「ヒーローもの」へのシフトをつよく望むようになる……。こうした驚くべき歴史的文脈を念頭におけば、「怪獣」と「超人」とは決して対立概念ではないと気づく。むしろストレートに連なる同族であることが見えてくるのである。