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28 December. 2015

コラム「超人探訪記」第12回「戦中と戦後の地続き感」

文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

 1980年代中盤、電機系企業のエンジニアだった筆者は通信装置のハード設計を担当していた。回路図面だけでなく、部品を選定することも大事な仕事だった。購買部門を経由して発注することになるが、ある日、怒りの電話を受けてしまう。「なんだってミルスペック使うの?」初耳の単語だった。高コストになるぞと、そんな指導で発注伝票を出し直して業務は前に進んだが、調べてみると「MIL規格」のことである。その“MIL”とは“Militaly”の略称なのだ。米軍国防総省が決めた物資調達規格のことであった。

 部品は抵抗だったが、精度も違うし、温度補償範囲が大きく違う。特に零下の保証範囲が広く、寒冷地での運用を連想させる規格となっている。それなら価格も違うわけだ。軍需産業用、防衛省向け限定というわけではなく、ある特定の業種では必要とされる動作補償含めての規格でもある。 しかし……と“Militaly”なる単語が身近に来て思った。「終戦」と簡単に言うが、終わったのは太平洋戦争だけだったのだと。国土は復興、憲法も変わったが、いまだ戦争は続いていると認識した方がいいと思った。森村誠一の『悪魔の飽食』(1981年刊)がベストセラーとなって、しばらくの時期でもある。同書は信憑性に疑義は提示されているものの、旧日本陸軍の関東軍731部隊が行ったとされる「細菌戦研究」や「人体実験」の実態を告発した点で、「戦中と戦後の地続き感」という、ひとつの視点をあたえてくれた。

 731部隊は1948年の「帝銀事件」にも関連している。薬物に詳しい犯人が厚生省技官をかたって猛毒の青酸カリを銀行員に飲ませ、現金を強奪したという、戦後の怪事件のひとつだ。捜査の過程で警察は登戸にあった陸軍第9研究所関係者から情報を入手したものの、占領中のGHQから旧陸軍関係者への捜査中止が命じられてしまう。つまり戦中の生化学データはそれなりに貴重だから、戦後のアメリカ占領時、取引に使われていたという疑惑があるわけだ。なぜそんなデータが必要なのか? もちろん世界では戦争が継続中だったからだ。

 この種の戦後の闇に光をあてようとした試みは無数にある。興味ある方は調べてほしい。そして登戸が生田の近くにあることなどから、『コンレボ』で描こうとしている内容が何なのか、思いあたるフシも見えるかもしれない。終戦から70年が経過してはいるが、戦中はいつも身近に存在しているのである。
第12回「戦中と戦後の地続き感」

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©BONES・會川 昇/コンクリートレボルティオ製作委員会